第35回 音曲芝居噺研究会2012/06/25 06:16

今年は林家彦六(8代目正蔵)の没後30年とのこと。

生前の師匠の高座にはもちろん間に合いませんでしたが、子供の頃TV番組「笑点」の正月恒例の師弟大喜利で、弟子の木久蔵(現:木久扇)師と一緒に出演しているのを見たり、最晩年に「彦六」襲名のニュースを聞いて、「何で名前を変えたんだろう?」と不思議に思った記憶はあります。(正蔵→彦六の経緯についてはこちら

その彦六師匠の最後の弟子:林家正雀師を中心に毎年開催されている「音曲芝居噺研究会」の第35回公演が、「林家彦六没後30年~彦六一門の会~」のサブタイトルで上野鈴本演芸場で開催されたので、仕事帰りに出かけてきました。

開演15分程前に会場に到着すると、御贔屓筋おそらく落語だけでなく歌舞伎や踊り関係のお客様でしょう、格調高いお召し物を着た方を大勢見かけ、普段の寄席とは違う華やかな雰囲気に包まれていました。客席の前方には彦六師匠のお嬢様の姿もお見受けしました。

この日の出演者と演目は下記の通り。

鈴本演芸場特別企画興行 第35回 音曲芝居噺研究会

ー開口一番ー
 柳家 フラワー 「間抜け泥(出来心)」

 林家 彦丸 「たらちね」
 林家 彦いち 「反対俥」
 林家 正雀 「四段目」
-仲入り-
 花柳 衛彦 舞踊「紀伊の国」「桃太郎」
 春風亭 百栄 「桃太郎後日譚」
 林家 正楽 紙切り(桃太郎、彦六師匠、雨の中の紫陽花、船徳、七夕、狐の嫁入り、スカイツリー)
 林家 正雀 「あんま幸治」(三遊亭圓朝作)

開口一番も林家かな?と思っていたら、柳家から花緑門下のフラワーさん。完全アウェーの中でも頑張っていました。

続いては正雀師の弟子で二ツ目の彦丸さん。普段の寄席と違う特別な会にふさわしく(?)非常に落ち着いた雰囲気を漂わせて登場。もうちょっと若さを前面に出しても良いのにと見るたび思うのですが、まぁこれが彦丸さんの持ち味なんでしょう。噺はお馴染みの「たらちね」。サゲは「酔って件の如し」

続いては、林家木久扇師の弟子の彦いち師。普段の寄席と客層が違うと判断したからでしょうか。お馴染みの自己紹介(学校寄席での体験談:「怖い~」「カワイイ~」「ありえない~」)でまずはご機嫌伺い。

噺は体育会系の彦いち師に合った威勢のよい車夫が登場する「反対俥」。上野駅まで戻らず、道端に落ちた芸者を揚げる所まで。

続いて正雀師の一席目。

マクラで歌舞伎役者の市川家について。世が世であれば彦六師匠が「市川中車」を名乗っていたかもと言う話を紹介して笑いを誘い「四段目」に。

流石に歌舞伎鑑賞が趣味で、鹿芝居(噺家による芝居)でも中心的な役割をつとめていらっしゃる師匠だけに、定吉が空想する芝居も迫真の演技で、最後にお櫃が運ばれてくる場面まで非常に見応えがあり、あらためて江戸の庶民が如何に芝居好きだったかがよく分かる噺でした。

仲入り後は、彦六師匠のご子息で日本舞踊家の花柳衛彦師による踊り「紀伊の国」と「桃太郎」

続いて春風亭栄枝師の弟子の百栄師。彦六師匠の孫弟子とは思えない(ご本人曰く、彦六師匠が怒りそうな)桃太郎の衣装を着て登場。今日のような会でも独自路線を貫いているところはスゴイです。

「日本一汚いモモエ」の自己紹介、ボケの症状のマクラから自作の「桃太郎後日譚」。会場の雰囲気から考えて無難な噺を選択しましたか。まさかここで「誘拐家族」や「マザコン調べ」は掛けにくいでしょうからね。

ヒザは紙切りの林家正楽師匠。日本舞踊・落語と桃太郎が続いたので、鋏試しでも桃太郎を。

今日はいつもと違って時間に余裕があるので、いつもよりも多く注文を伺い、かつ細かい所までハサミを入れていましたが、紙切りの芸はいつ見ても「スゴイ」の一言です。

そしてトリの正雀師匠、三遊亭圓朝作「あんま幸治」予習のため市の図書館から彦六師匠のCDを借りて来てよく見たら、よく似た名前の「やんま久治」で、結局ネットで調べてもあらすじが分からず初めて聴く噺です。

演り手も少なく滅多に演じられる事が無いようです。(おそらく現代では不適切な表現も含まれていることから、寄席では掛けられないことも理由ではないかと思います)

盲目の幸治が人の心を見る眼力の凄さがこの噺の魅せどころとは思いましたが、どうも私は落語にかぎらず小説等でも登場人物の多い物語は苦手なうえに、前述の通り初めて聴く噺なので、登場人物を理解するのがやっとで、そうこうしているうち新内の三味線が鳴って、これから盛り上がるのかと思っていたら、突然木が入り切れ場になって終演。正直尻切れトンボの様な感覚は否めませんでした。

しかしながら音曲芝居噺、なかなか定席寄席では聴くことが出来ないので、次回も都合がつけばぜひ会場に足を運んでみたいと思います。