「幕末太陽傳」を観る ― 2012/01/07 17:18
今年(2012年)は、日本最古の映画会社・日活の創立100年にあたり、それを記念して昨秋からかつての名作をDVDで発売開始しましたが、その中に人気投票で常に上位にランキングされている「幕末太陽傳(1957年)」がラインナップされていないことを不思議に思い、その事をTwitterでつぶやいたところ、すかさず日活100周年実行委員会さんから「幕末太陽傳は現在デジタル修復中で、年末に劇場公開予定です」と返事が来ました。
以前この作品がケーブルテレビで放映された時、録画して何度か観たことはありますが、修復されて劇場公開されるとなれば、ぜひ大画面で観てみたいと思い、前売り券を購入して今日新宿のテアトル新宿へ出かけてきました。
テアトル新宿で映画を観るのは、チャップリンの作品の日本国内における上映権が切れる直前(1986年)に、特集を組んで上映した時以来ですから、四半世紀ぶりになります。
さて、作品については既に多くの方が賛辞を述べている通り、日本映画黄金期の屈指の痛快娯楽作品であり、主演のフランキー堺演じるところの「佐平次」がとにかく素晴らしいです。
喜劇役者としてのフランキー堺は、これまでにも「牛乳屋フランキー」や「ラーメン大使」、「喜劇とんかつ一代」、「君も出世ができる」などを観てきましたけれども、正直今ひとつ面白いと感じたことはなかったのですが、この「幕末ー」だけは別。フランキー堺以外に考えられないはまり役。
落語の世界から抜け出てきたかのような台詞回し、スクリーンを文字通り縦横無尽に走りまわり、機転を利かせ様々な難問を越えてしぶとく生きる姿がなんとも言えません。
印象に残るのは、品川沖の船上で高杉晋作(石原裕次郎)に、
「どうせ旦那方、百姓町人から絞り上げたお上の金で、やれ攘夷の勤皇のと騒ぎまわっていればそれで済むだろうが、こちとら町人はそうはいかねぇんだぃ!」
「てめぇ一人の才覚で世渡りするからには、へへっ首が飛んでも動いて見せまさぁ!」
と言い放つ啖呵が実に力強く、時代を越えて現代にも通じる感があります。
それにしても、今回のデジタル修復は見事なもので、古い映画にありがちな擦り傷などは綺麗に消され、明暗・コントラスト・音声も調整されているおかげで、半世紀以上も前に撮影されたものとは思えません。おかげで遊女(南田洋子・左幸子)の美しさも見事に表現されています。
ストーリー全体は古典落語「居残り佐平次」をベースに、複数の落語を見事に織りまぜていますから、落語を知っていれば「あぁこのシーンは「品川心中」だな、「三枚起請」だな」と分かって、そちらの方でも楽しめますが、もちろん落語を知らなくても十分楽しめること請け合いです。
この作品は映画館の大画面で鑑賞されることをお勧めしますが、そうでなくても近いうちにDVDで発売された暁には、ぜひご家庭でも楽しんでみてはと思います。
最後にこの映画のベースになっている落語の「居残り佐平次」のCDを。こちらは今は亡き不世出の名人:古今亭志ん朝師の明るく華のある口演。お求めやすい価格でおすすめです。
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